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潮騒の国−神島紀行(三)六日祭

神島六日祭
先を射止める爺さん 2010年1月6日

 鳥羽市の神島で奇祭と知られるゲーター祭を体験して5日越しに、また神島へやって来た。神島の正月行事は年暮れから続き、1月6日の夕方に行われる六日祭で締めくぐる。六日祭は松明行事と弓引き祭りがあり、八幡祭とも呼ばれる。伊勢湾口に浮かぶ絶島ゆえに時流れの影響も少なく、伝統が消えゆく世の中で又もや奇跡的な祭が観られた。
 朝から強い北西風が荒れるなかで、欠航を恐れ午前の便で神島に着いた。冬の潮風に浴びせながら島めぐりに出かける。静かな路地裏を辿り、八代神社や神島灯台、古里の浜等を通い、伝統と自然溢れる小島を散策した。
 午後3時ごろ、参詣者一同は海で垢離をとり、新しく着替える。時計が4時を回ると、「ヨイサ、ヨイサ」の掛け声が響き、六日祭が始まった。潮花で通り道を清めながら宮持の奥さんを先導に、「松明」、「弓矢」、「的」を担ぐ一行が八代神社に向かう。広場で神主が祓いを終えた後、切り火で10本の松明に移し、各家の使い古したお札や注連縄の山積みに燃えついた。その間、隣ではお白石餅搗きが行われる。しばらくして介添え役の支えにより、火のついた松明を八代神社へ214段ある石段を一気に登る。大松明は強風の中を乱舞し、火の粉は飛び散る。
 神殿での式典が終わると一行は再び神社を降りて、火越しの迫力ある弓引き祭りが始まる。太陽はすでに西に沈み、周りはうす暗くなっていた。松明の「ケシズミ」に顔が黒く塗られた宮持と爺さん2人をはじめ、12人の道者が火越しに予め掛けられた的を目がけて1人2本づつの矢を射る。1本射るごとに周りから「オ−」と歓声が上がり、松明に照らされて先を射止める射手の眼差しには希望が漲っていた。

鳥羽市神島六日祭 鳥羽市神島六日祭 鳥羽市神島六日祭 鳥羽市神島六日祭
身を切る寒さの中で海に入り、垢離をとる 潮花で道を清める 聖なる火を起こす 燃え盛る松明を担ぐ
鳥羽市神島六日祭 茅結びした縁起物モローモ 神島灯台 八畳ケ岩
弓引き祭 地元の方からモローモを頂く 神島灯台 八畳ケ岩

 六日祭が済むと神島の人々の正月が終わり、明日から漁や仕事に出かける。年末から続く豆まきやゲーター祭り、そして旧年を締めくぐる六日祭には孤島の生い立ち、伝統に深く根ざした厳しい漁撈生活と向き合う人々の強い信念が見られた。
 7日の朝、一番乗りで鳥羽港に戻った。船酔いにも翻弄され、遥か遠郷から帰着する想いがした。