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南伊勢町方座浦で男化粧の浅間祭

 南伊勢町は三重県の南部、伊勢志摩国立公園の南玄関に位置し、山から海まで多彩な自然と豊かな農林漁業が育む山村と漁村文化が混在する所である。毎年6月から7月にかけて、南伊勢町の各地区で行われる浅間祭は富士山信仰に繋がるといわれる。
 今年6月に初めて同町の礫浦で浅間祭を体験し、7月2日には男化粧で知られる方座浦の浅間祭を見に行った。毎年旧暦5月27、28日に近い土、日に行なわれる浅間祭は方座浦の一番重要な祭りで、江戸時代から疫病退散を願う祭りだと伝えられている。

南伊勢町方座浦の浅間祭

南伊勢町方座浦の浅間祭

 鳥羽市から車で約2時間かけて、朝7時前に南伊勢町方座浦へ着いた。集会場では男たちが酒を飲みながら顔に化粧をしている。7時過ぎ、竹で作ったそれぞれ高さ9mの大幣、小幣を数人で持って町中を回り始める。その後ろに一列に並んで小太鼓を鳴らし、道中歌を歌いながら踊り出た。午前中に三箇所で行われる幣立ての行事がある。一つは選ばれた家、次は新築の家、最後は漁港広場で2本の幣を立て、小太鼓を鳴らしながら踊る。真夏の暑さで太鼓の音が町内に響き、汗まみれの踊りは見る側も大変な思うがする。11時30分頃に午前中の行事が終了し、残りは午後から浅間山へ登ることだ。

南伊勢町方座浦の浅間祭

南伊勢町方座浦の浅間祭

 昼休憩中に地元の長老から、浅間祭の見せ場は浅間山の山頂手前に立つ鳥居から大幣(姉)と小幣(妹)の山頂への競い合いで、通常は妹が勝つと言う。浅間山は標高150mで、岩だらけの急斜面が続き、素手で登るのも大変なのに、幣(御輿)を立てて奉納する男たちの姿に感心する。最後の姉(醜女、石長比売)、妹(美女、木花之佐久夜毘売命)競争は一瞬に終わり、今年も妹が勝った。

南伊勢町方座浦の浅間祭

南伊勢町方座浦の浅間祭

 方座浦の浅間山で祀る姉妹神は地域の守護神であり、年に一度化粧する男たちが賑やかに姉妹神を盛り立てることは、漁村の安全や厄払いにつながる。浅間信仰はもともと富士山信仰と関連し、地元信仰と習合した独特の浅間祭に変化して、今も素朴さとユニークさ、そして賑やかさを備える祭りに変わりはない。